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- 今回は血管研究の権威でいらっしゃる板倉先生に、血管を守るセルフメディケーションについて伺います。早速ですが、先生はなぜ血管に興味を持たれたのですか?
- 心臓や脳の動脈硬化症など、血管系の異常は万病のもとだからです。私が医学部卒業後に入った内科では、当時、脳出血や脳卒中の患者が増えていました。それで、いろいろな油の摂取の影響を疑い、油と血管について研究し始めました。人の体はエネルギーを作るために、酸素を使って栄養素を燃やしています。その時に全身にできた酸化物が全部うまく排除できればいいのですが、一部が蓄積して血管の壁を少しずつ厚くするのです。この現象は、生まれてすぐ起こると言われています。
- 産声をあげて空気を吸った瞬間から始まるということですか?
- そうです。10−20代でも、はっきり動脈硬化症と分かるぐらいに血管内部が肥厚して狭まっていることがあります。しかし50%詰まっていても症状は出ません。それだけ人間の体というものは、なんとか健康を保とうとしているということでしょうね。
- まれに100歳でも血管がさび付いていない人がいるそうですが、何が違うのでしょう?
- 体質もあるでしょうし、生活習慣の影響もかなり大きいでしょう。従来の栄養学では、炭水化物・タンパク質・脂質・ビタミン・ミネラルを合わせた五大栄養素に注目していましたが、ここ十数年は、ファイトケミカルと呼ばれる非栄養素が重要と分かってきました。その筆頭が食物繊維です。腸壁から吸収されて体内で作用する栄養素ばかりでなく、吸収されなくても実際には大事な機能を果たしているものが見つかってきたわけです。
- チョコレートの原料のカカオは食物繊維やポリフェノールなどファイトケミカルが豊富です。赤ワインに含まれるレスベラトロールも「若返りの薬」とされ、大変話題になりました。
- 酸化は人間が酸素環境下で生きていくためには、避けては通れない反応です。大切なのは、その結果できる酸化物を溜めないこと。酸化物は毒性が高いので細菌やウイルスを排除してくれますし、適量であれば、むしろ体を活性化してくれますが、過剰になると自分の細胞を傷つけてしまうのです。酸化を抑える栄養素としてビタミンCやE、βカロチンが見直され、どうもそれだけでは不十分だということで見出されたのが、お茶の葉に含まれるカテキンや、各種のファイトケミカルでした。マウスでもヒトでも、食べると体内の活性酸素が抑えられました。
- タンニン類、カテキン類、アントシアニン類、フラボノイド類などを総称する「ポリフェノール」には、体のさび付きを抑える働きがあるのですね?
- ポリフェノールの種類によって働きは若干違いますが、活性酸素を減らして細胞を傷害から守り、体内の炎症を和らげてくれるのは共通です。種類によって体内への吸収率などが異なるので、数種類を組み合わせると良いでしょうね。
- 板倉 弘重(いたくら・ひろしげ)
プロフィール - 医療法人社団IHL品川イーストワンメディカルクリニック理事長、国立健康・栄養研究所名誉所員、日本動脈硬化学会名誉会員。1961年に東京大学医学部を卒業後、沖中内科(沖中重雄先生率いる東京大学医学部附属病院第三内科)を経て、米・カリフォルニア大学サンフランシスコ心臓血管研究所に留学。1985年から96年まで国立健康・栄養研究所の臨床栄養部長を務める。現在はクリニックで臨床医をしながら、日本ポリフェノール学会理事長など複数の学会の役員をこなす。2006年に瑞宝双光章を受賞。かんき出版『最新の医学が解き明かす チョコレートの凄い効能』、主婦の友社『大丈夫!何とかなります 血糖値は下げられる』など、著書多数。おいしく楽しく動脈硬化を予防する高ポリフェノール食品としてチョコレートや赤ワインに着目し、その研究成果を社会に分かりやすく発信している。
「調剤薬局ジャーナル」2018年9月号より転載
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