セルフメディケーション シリーズ 対談:「ファーマドリーム」を叶えて世の中に希望をもたらしたい

セルフメディケーション シリーズ 対談:「ファーマドリーム」を叶えて世の中に希望をもたらしたい

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連載Vol.4 糖尿病専門の内科医が語る口腔ケアの重要性 にしだわたる糖尿病内科 院長 板倉 亙

にしだわたる糖尿病内科 院長 板倉 亙

連載Vol.4 調剤薬局ができる呼びかけとは

杉本アイコン
薬剤師は志を持てという話をしましたが、「カウンターの外へ」だけでなく、患者さんの家まで出かけて行く訪問薬剤師は、これからますます重要な役割を担うことになると思います。薬剤師本来の立場から患者さんの暮らしを支えることができますから。
もう1つ、「薬剤師が医師の陰に隠れている」ということはありませんか。薬を処方しているのは医師なので、何か問題があった場合は医師の責任になります。しかしその間違いをチェックできるのが薬剤師です。
医師の処方が適切でなかったり、過剰になってしまうこともあります。それを正すのが、プロの薬剤師の仕事です。医師に意見して戦う根性がないと、医師と同等の立場になることはできません。
池田アイコン
難しい問題もたくさんあると思いますが、「患者さんを救おう!」という意志が見える薬剤師の方が増えていくことを願っています。
杉本アイコン
創薬に携わる者には「ファーマドリーム」という言葉があります。医師が一生かかって治せる患者さんの数には限りがありますが、しかし、1つの新薬を開発することで数えきれない人数の患者さんを助けることができる。そういう、創薬の夢と希望…光を表す言葉です。もちろん、新薬開発の成功率はあまりにも低く、困難なことの連続ではあるのですが……。
池田アイコン
アリセプト開発までに15年を要したとか。1つの創薬のために1000を超える化合物を合成されたと聞いています。新薬を世に送り出すには血の滲むような努力の日々があったのですね。
杉本アイコン
実は私が生まれた家はとても貧乏で、私は八番目に生まれたので八郎と名づけられたのです。貧しくて勉強のできない子どもはいじめの対象になります。それに反発して剣道を始めました。今では剣道七段です。
理数系の科目は苦手で、小説家を夢みる文学少年でもありました。でも小説家で食べていけないのは目に見えていましたから、手に職を得るために工業高校へ進学しました。エーザイに入社したのは、たまたま卒業前に求人を見つけたからです。大卒の人間たちに負けないように、人の1,5倍は実験をして働きました。私のように高卒で、大学も夜間部にしか行っていないような人間が、アリセプトを創ることができたのはなぜでしょう。きっとその逆境がよかったのだと思います。諺にも「最も優れた教師は逆境に優るものはない」と言います。逆境に陥ったらチャンス到来と思いたいですね(笑)。
アリセプトを創るきっかけは、ある日、母親から「あんたさん、誰でしたかね?」と言われたから。母の一言が認知症の治療薬を創ろうという原動力になりました。
母を助けたい、その一念でやり遂げました。残念ながら、母はもう逝ってしまいましたが、私の夢は終わりません。
私は夢を実現するために、GT863の開発にがむしゃらに取り組んでいます。もう後期高齢者ですけれども、「ファーマドリーム」の志が私を支えています。
池田アイコン
先生のような人生を歩んできた方から聞く「ドリーム」の言葉は重厚で、ずっしりと胸に響きます。新薬開発のご成功を心から願っています。今日はたくさんの貴重なお話を、本当にありがとうございました。

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杉本 八郎(すぎもと・はちろう)
プロフィール
1942年、東京生まれ。工業高校を卒業後、エーザイ株式会社に入社。勤務の傍ら、中央大学理工学部工業化学科を夜学で卒業。新薬開発の研究室で、高血圧治療薬「デタントール」、そして世界初のアルツハイマー病治療薬「アリセプト」の創薬に成功した。アリセプトは1997年に米国で、1999年に日本で承認・発売。1998年、薬のノーベル賞と言われる英国ガリアン賞特別賞を受賞。1999年に日本薬学会技術賞、化学バイオつくば賞、2002年に恩賜発明賞を受賞。京都大学薬学研究科創薬神経科学講座教授(2003~2010年)。京都大学大学院薬学科最先端創業研究センター教授(2010~2012年)。同志社大学脳科学研究科教授(2012~2016年)、同志社大学生命医科学研究科客員教授(2016年~現在)。日本薬学会理事。有機合成化学協会理事。一般社団法人認知症対策推進研究会代表理事。グリーン・テック株式会社代表取締役。趣味は俳句:日本俳人協会会員、俳誌風土同人会長。剣道教士七段。

「調剤薬局ジャーナル」2018年9月号より転載

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