医学と異分野をつなげる「橋渡し役」に 連載Vol.1.医療に対する概念の違いを実感したドイツ生活  大村光代先生 (薬剤師 / 慶應義塾大学特任講師)

医学と異分野をつなげる「橋渡し役」に 連載Vol.1.医療に対する概念の違いを実感したドイツ生活  大村光代先生 (薬剤師 / 慶應義塾大学特任講師)

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連載Vol.1.医療に対する概念の違いを実感したドイツ生活

大村光代先生 (薬剤師 / 慶應義塾大学特任講師)

医療に対する概念の違いを実感したドイツ生活

池田
本日はよろしくお願いいたします。まず先生のキャリアの始まりである、薬学部に進まれたきっかけからお聞かせください。
大村
もともと歴史などの科目に興味がなく不得意でしたし、理系タイプでした。高校生の頃、どういう進路に進もうかと考えていた時期に、理系の女子というところで考えると薬剤師かなという感じで進みました。
大村光代先生
池田
脳が“リケジョ”だったんですね。思い描く薬剤師像はありましたか?
大村
当初は具体的な理想はありませんでしたが、学んでいるうちに、せっかく薬剤師になったなら面白い仕事がしたいと考えるようになりました。決まった薬を処方するだけでは飽き足りないというか、白衣を着て調剤をする自分の姿をあまり想像できなかったんです。
そんな時、アメリカでは医師と薬剤師がチームとなって患者の治療にあたっていることを知りました。私もそんな仕事がしてみたいと思い、薬学部を卒業後、慶應義塾大学病院で整形外科の研究助手として働き始めました。病院に入れば思い描く働き方――チームとして動くような働き方が見つけられると思ったんです。でも、そんな仕事はどこにもありませんでした。
池田
薬剤師の立場が海外とは違い、隔たりを感じるところですね。目指していた働き方が見つからず、次のステップにはどのように進まれたんですか?
大村
大学時代は漢方研究部で漢方薬の勉強をしていたこともあり、津村順天堂(現・株式会社ツムラ)に就職しました。知識を生かせる仕事は楽しかったのですが、徐々に「このままでいいのか?」と思うようになりまして…。そんな時、ツムラの先輩たちが「ここで留まらず、外資系にチャレンジしてみては?」と背中を押してくださって。ツムラに約5年半在籍した後、ドイツの製薬会社、メルクジャパン株式会社(現・メルク株式会社)に転職しました。
池田
外資系会社への転職とは、勇気のある選択ですね。
大村
そうですね。もちろん大変ですけど、本社のあるドイツへ出張する機会も多く、いろいろな経験ができたのはよかったですよ。たとえばドイツでは各薬局の入口のところに、どこそこの薬局は何曜日に遅くまで開いているという案内があり、地域全体でうまくコミュニケーションがとれているユニークなシステムがあることを知りました。そういえば、1999年に10カ月ほどドイツに住んでいた時、こんなことがありました。風邪をひいて薬を買いに行ったら、風邪薬が売っていなかったのです。
池田
風邪薬…OTC医薬品が置いてないんですか?
大村
いえ、薬自体はたくさんあるのですが、いわゆる風邪薬というのがないんです。熱や咳など、具体的な症状に合わせた薬は処方してくれるのですが、いわゆる総合感冒薬がなくて、「君の今の症状で、売るものは何もない」と言われました。「えーっ、こんなガラガラ声で辛いのに薬を出してくれないの?」と店主を見ても、「早く帰って寝なさい」と。仕方なくスーパーに行ったら、ハーブが入ったシロップみたいなものを見つけましてね、たぶんハーブなら効くんじゃないかと思い、それを買って飲んだらすぐに治ったんですよ!(笑)
日本では何はなくともまず風邪薬でしょう? 国によって薬に対する考え方がこんなにも違うものだと実感した出来事でした。
フランスの薬局をまわる機会もあったんですが、フランスはフランスでまたシステムが違うのです。隣り同士の国でも医療と薬学の仕組みはまったく違うというのは面白い。それぞれのお国柄が出るというか、住んでいる町や風土、環境によってセルフメディケーションも変わるということを学びました。

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大村 光代(おおむら・みつよ)
プロフィール
東京都出身。医学博士、MBA、薬剤師。1983年に明治薬科大学薬学部卒業後、慶應義塾大学病院整形外科の研究助手を経て、株式会社津村順天堂(現・株式会社ツムラ)に入社。その後、メルクジャパン株式会社(現・メルク株式会社)へ転職、勤務を続けながらテンプル大学大学院にて経営学修士修了。2003年よりベンチャー企業の経営に関わったのち、2007年、慶應義塾大学医学部大学院博士課程医学研究科入学。2015年に医学博士号取得。現在、同大学特任講師。同大学病院 臨床研究推進センター広報部門 部門長兼 トランスレーショナルリサーチ部門 連携支援ユニット ユニット長を務める。

「調剤薬局ジャーナル」2020年1月号より転載

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