薄紙を一枚一枚重ねるように患者さんからの信頼を得る努力を! 帝京平成大学薬学部教授 井手口 直子

薄紙を一枚一枚重ねるように患者さんからの信頼を得る努力を! 帝京平成大学薬学部教授 井手口 直子

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連載Vol.2.オンライン服薬のカギは「かかりつけ薬局&薬剤師」

帝京平成大学薬学部教授 井手口 直子

連載Vol.2.オンライン服薬のカギは「かかりつけ薬局&薬剤師」

池田
新型コロナウイルスの流行で、初診からのオンライン診療が注目されていますが、調剤薬局への影響はいかがでしょうか。
井手口
これまで調剤薬局の多くは病院やクリニックの近くに立地し、処方箋を受け付けてきましたが、今後オンライン診療が普及すると、患者さんは自宅から遠方のドクターを選ぶようになるかもしれません。そんな時、処方箋をどこに送ってもらうかが問題です。将来、薬はオンラインによる服薬指導で、どこの薬局でも出せるようになります。そこで選ばれるためにはどうするか? かかりつけ薬局、かかりつけ薬剤師でなければならない理由がここにあります。
井手口直子氏
池田
先生が大学で教えている「ファーマシューティカル・コミュニケーション学」では、患者さんとのコミュニケーションの取り方で信頼度が変わるとおっしゃっています。かかりつけ薬剤師として選ばれるためにコミュニケーション能力は欠かせないと思いますが、先生はどのようなきっかけでその重要性に気づかれたのでしょうか?
井手口
最初にコミュニケーションの重要性を感じたのは、私が薬剤師になって間もない頃です。まだ実務実習も義務化されていない時代で、当時は専門的な知識をわかりやすく簡潔に伝えるのが薬剤師としての役割だろうと思っていました。ところが、何度も何度も同じ質問や悩みを繰り返す患者さんと接するうちに、だんだん違うんじゃないかと思い始めて……患者さんは辛い気持ちや心配事を私たち薬剤師にわかってほしい、共感してほしいのだと気づいたのです。 薬剤師にはありがちなんですが、患者さんからの相談事に対してすぐに正解を出そうとします。でも患者さんの本音はすぐに出てくるとはかぎりません。「この人に言っても大丈夫かな?」と反応を見ている段階なのに、薬剤師が拙速に結論を出そうとすると、「ああ、やっぱりこの人には言えない。黙っておこう」と気持ちを引っ込めてしまうのです。 答えは決して一つではありませんし、最短距離で出せばよいというものでもありません。一つ一つ、患者さんの疑問や悩みを聞き出し、共感し、さらに質問を重ねていくことで信頼は醸成されます。信頼とは、まるで薄紙を重ねていくように積み重ねるものなのです。

VOL.3 へ続く >>

井手口 直子(いでぐち・なおこ)
プロフィール
帝京大学薬学部を卒業、薬剤師として勤務後、独立して株式会社新医療総合研究所を設立。日本大学専任講師、帝京平成大学薬学部准教授を経て、2013年より教授に就任。薬学博士、教育博士。日本ファーマシューティカルコミュニケーション学会常任理事、全国薬剤師・在宅療法支援連絡会副会長、日本地域薬局薬学会理事等を務める。ラジオNIKKEI『井手口直子のメディカルCafé』のパーソナリティとしても活躍中。最新刊『薬剤師になるには』(編著・ぺりかん社)のほか、著書多数。

「調剤薬局ジャーナル」2020年7月号より転載

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