セルフメディケーション シリーズ 対談: 1日3杯のコーヒーが健康寿命を延ばす

セルフメディケーション シリーズ 対談:1日3杯のコーヒーが健康寿命を延ばす

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連載Vol.1 1日3杯のコーヒーが体にいい理由 岡希太郎 先生

連載Vol.1 1日3杯のコーヒーが体にいい理由 岡希太郎 先生

連載Vol.1 1日3杯のコーヒーが体にいい理由

池田アイコン:
最近「コーヒーが健康にいい」という話をよく聞くようになってきました。以前はむしろ、カフェインの中毒性や「がんになる」というようなことがまことしやかに言われていました。コーヒーが体にいいことがわかってきたのは、いつ頃からなのでしょうか。
岡アイコン
「コーヒーは体に悪い」という説は、1960年代以降にがん患者が増えてきた頃から言われ始め、悪者のように扱われていた時期がありました。焼け焦げた食品が喉頭がんや膀胱がん、肺がんなどを引き起こすのではないか、と考えられていたのです。コーヒー研究はこういった事情から盛んになり、最近ではむしろコーヒーには健康効果があることがわかってきました。  「コーヒーは体にいい」ということがエビデンスとして多く出てきたのは2000年代に入ってからです。2000年に「コーヒーがパーキンソン病を予防する」という論文が発表されたのを皮切りに、2型糖尿病や肝臓がんを予防できるという研究結果が続々と報告されています。
池田アイコン
具体的にはコーヒーのどの成分が、どのように有効なのでしょうか。
岡アイコン
コーヒーには健康効果を高める成分が多く含まれています。代表的なカフェインのほか、ポリフェノールの一種であるクロロゲン酸、植物性のビタミンB3であるニコチン酸、NMP(N-メチルピリジニウムイオン)などです。  カフェインは単独では眠気の解消や鎮痛効果がありますが、ほかの成分と一緒になることで相乗効果が働きます。カフェインとクロロゲン酸が一緒に存在することで、身体の抗酸化や抗炎症作用をより強く発揮します。 また、コーヒー豆に含まれるトリゴネリンという成分は、加熱するとニコチン酸とNMP という物質に変化します。ニコチン酸は高脂血症を予防する薬にもなっており、体がストレスを受けたときの血中脂肪酸の濃度を下げて血管を護る作用があります。NMPはストレスを緩和するほか、強い抗酸化作用をもっています。これらはコーヒーを焙煎してはじめて作られる成分です。
池田アイコン
コーヒーは糖尿病の予防にも効果があると聞いています。
岡アイコン
糖尿病の中でもインスリンの働きが悪くなることで起こる2型糖尿病の予防に効果があります。カフェインには細胞を保護する働きが、クロロゲン酸には糖分の吸収を抑えて食後血糖値を低く保ち、脂肪の燃焼を助ける働きがあることがわかっています。食後の血糖値に作用させるには、食前から食中にコーヒーを飲むといいですね。くれぐれも砂糖を入れてはだめですよ。
池田アイコン
私はお酒を飲んだ後にコーヒーを飲むと、酔いが回りにくいような気がするのですが。
岡アイコン
むしろお酒を飲む前に飲むといいですよ。コーヒーに含まれるカフェインをはじめ、クロロゲン酸、トリゴネリン、ポリフェノール、焙煎後に生成されるピリジニウム塩基など多くの物質が、肝臓にさまざまな作用を及ぼすことがわかっています。肝臓がんは脂肪肝や肝臓の線維化、肝硬変、ウィルス性肝炎などいくつかのルートを経て発症すると言われていますが、そのすべてのルートに対してコーヒーの成分が有用であることが2017年の研究※でわかっています。ですからコーヒー研究家の中には「コーヒーは肝臓のマジカルドラッグ(魔法の薬)だ」という人もいます。
池田アイコン
肝臓のマジカルドラッグですか。コーヒーが体にいいのなら、たくさん飲んでもいいのでしょうか。
岡アイコン
データに基づいて1日3杯が適量と考えています。体にいいからといってたくさん飲むと、今度はメリットよりもデメリットが出てきます。コーヒーを毎日9杯以上飲み続ける人は心血管病や脳卒中のリスクが高くなるという調査結果もありますから、飲み過ぎることのないよう、朝・昼・夕などに分けて、味わいながら飲んでいただきたいですね。
池田アイコン
コーヒーはサプリメントよりも親和性が高いですし、リラックス効果もあってゆったりした気分になれますね。薬ではなく、食品から病気を予防する成分を摂れることは素晴らしいことだと思います。 ところで、高齢化社会に伴い、認知症の患者さんもとても多くなってきています。コーヒーと認知症の関係についてはどうでしょう?
岡アイコン
コーヒーを日常的に飲んでいるとアルツハイマー型認知症にならないというエビデンスは、今のところほとんどありません。ただ、コーヒーに認知能力低下を防ぐ成分があるという研究結果が出ています。しかしながら、成分の特定には至っていないようです。 この分野で私がとても興味深いのは、「コーヒーマインドフルネス瞑想」を活用した行動認知療法です。2008年にアメリカで出版された『禅とコーヒー:マインドフルネス瞑想のすすめ』という書籍をきっかけに、アメリカのカリフォルニア大学による研究が進んでいます。コーヒーを飲んだり、淹れたりしながらマインドフルネス瞑想を行うことでストレスを軽減するというものです。
池田アイコン
ゆったりとコーヒー味わうことと瞑想のリラックス効果で穏やかに過ごそうというアプローチなのですね。ますますコーヒーの奥深さを感じます。

VOL.2 へ続く >>

岡希太郎 先生(おか・きたろう)
プロフィール
1941年、東京生まれ。東京薬科大学卒業、スタンフォード大学医学部に留学し、薬化学と臨床薬理学を専攻、薬学博士(東京大学)。東京薬科大学名誉教授、日本コーヒー文化学会理事。著書に「臨床薬理学」(朝倉書店)、「なるほど くすりの原料としくみ」(素朴社)、「マンガ・珈琲一杯の元気」「珈琲一杯の薬理学」(以上、医薬経済社)、「毎日コーヒーを飲みなさい」(集英社)など多数。

「調剤薬局ジャーナル」2018年5月号より転載

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