セルフメディケーション シリーズ 対談:「おいしく楽しく」血管から健康に

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連載Vol.3 「おいしく楽しく」血管から健康に 板倉弘重 氏(医学博士)

板倉弘重 氏(医学博士)

連載Vol.3 「おいしく楽しく」血管から健康に 板倉弘重 氏(医学博士)

池田アイコン:
先生は、どのような経緯で動脈硬化のメカニズムを解明されたのでしょうか?
板倉アイコン
ちょうど私が動脈硬化の研究をしていた1970年代半ばに、のちにノーベル賞を受賞するゴールドスタイン博士とブラウン博士が、LDL(低比重リポタンパク質)を取り込んで処理する「LDL受容体」を発見しました。LDLは細胞膜やホルモンの材料になるコレステロールを全身に運んで役立つ一方で、過剰になると動脈硬化を招くので「悪玉コレステロール」と呼ばれます。高コレステロール血症の研究から、この受容体を見つけたのが彼らの発見ですが、動脈硬化の根本原因は不明のままでした。約5年後に、活性化酸素で劣化したLDL(酸化LDL)がLDL受容体に取り込まれないことが分かり、酸化LDLこそ動脈硬化の本当の原因では、と言われるようになったのです。
池田アイコン
血液中にコレステロールが多いからといって、必ずしも動脈硬化を起こすわけではないのですね?
板倉アイコン
そうです。肝臓の代謝が良いと古いコレステロールは次々と分解・処理されて胆汁酸になり、便に入って排泄されます。しかし、老化などで肝臓の機能が低下して代謝が遅れると、体に溜まったコレステロールが酸化しやすくなります。酸化LDLは通常、血管内で白血球の一種であるマクロファージが処理しますが、その残骸が溜まることで動脈硬化が起きます。これを防ぐために、酸化LDLを取り込む受容体の構造を知る必要がありました。そして、まず、児玉龍彦先生と米マサチューセッツ工科大学のグループがウシの酸化LDL受容体を見つけました。次いで私の研究室が、ヒトの酸化LDL受容体を取り出して、ついには構造を特定したというわけです。
池田アイコン
動脈硬化を招く酸化LDLの引き取り手が特定できたのは大発見ですね! 板倉先生はその後の研究にはずみをつけてくださいました。
板倉アイコン
その頃ちょうど、1989年の昭和天皇御長寿御在位60年を記念して、国を挙げた長寿研究プロジェクトが始まったのです。そこで私は、健康寿命を延ばすためには活性酸素を抑える食品が重要と考えて、チョコレートや赤ワインの研究に着手しました。
池田アイコン
カカオポリフェノールついては、LDL値を抑えて動脈硬化を防いだり、インスリンの分泌を高めて糖尿病を防いだり、神経細胞の再生に関わるBDNF(脳由来神経栄養因子)を増やすなど、たくさんの良いデータが出ています。
板倉アイコン
がん抑制効果も期待されていますね。活性酸素が減って正常な細胞が傷害されなくなると、がん細胞は増えにくくなるからです。インスリン分泌が高まるのも、ポリフェノールによってミトコンドリアが元気になり、膵臓の細胞の機能が高まった結果でしょう。神経細胞が死んで脳が委縮していくアルツハイマー病などの認知症や神経疾患も、最近はミトコンドリアの機能低下が一因と言われています。
池田アイコン
ミトコンドリアに注目が集まっているんですね。
板倉アイコン
そうですね。ミトコンドリアで酸素を使ってエネルギーを産生していますので、ミトコンドリアは酸化されて機能低下を引き起こしやすいのです。酸化を抑えるポリフェノールは脳の機能改善にも有効かもしれません。神経細胞同士は少し離れていて、神経伝達物質を介して電気信号を伝えるので、その隙間に酸化物があると、物質の移動が妨げられて支障が出るからです。神経細胞を活性化するBDNFの詳細は、まだ分かっていませんが、運動によって増えることは確かなようです。

VOL.4 へ続く >>

板倉 弘重(いたくら・ひろしげ)
プロフィール
医療法人社団IHL品川イーストワンメディカルクリニック理事長、国立健康・栄養研究所名誉所員、日本動脈硬化学会名誉会員。1961年に東京大学医学部を卒業後、冲中内科(冲中重雄先生率いる東京大学医学部附属病院第三内科)を経て、米・カリフォルニア大学サンフランシスコ心臓血管研究所に留学。1985年から96年まで国立健康・栄養研究所の臨床栄養部長を務める。現在はクリニックで臨床医をしながら、日本ポリフェノール学会理事長など複数の学会の役員をこなす。2006年に瑞宝双光章を受賞。かんき出版『最新の医学が解き明かす チョコレートの凄い効能』、主婦の友社『大丈夫!何とかなります 血糖値は下げられる』など、著書多数。おいしく楽しく動脈硬化を予防する高ポリフェノール食品としてチョコレートや赤ワインに着目し、その研究成果を社会に分かりやすく発信している。

「調剤薬局ジャーナル」2018年9月号より転載

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